作品紹介

【ボーカロイド曲を紹介していく連載】第7回~R&B

みなさんこんにちは。

ボーカロイド曲を紹介していく連載企画、第7回目は<R&B>です。


■R&Bとは

<R&B>(リズム&ブルース)というジャンルはご存知の方も多いと思いますが、そのルーツは、アフリカ系アメリカ人(奴隷としてアメリカへ連れてこられたアフリカの黒人たちとその子孫)のなかで生まれた音楽であるゴスペルやブルース、ジャズにあります。こうした黒人たちによる音楽は「レイス(人種)・ミュージック」と呼称されて白人のものとは区別されており、音楽誌の「ビルボード」でも「レイス・ミュージック」としてチャートを発表していました。しかし、1947年には、そのジャンル名は時代にそぐわないとされ、ビルボード誌の編集者が<R&B>という呼称を提案し、それが定着していきました。

<R&B>は時代とともに洗練され、多様化しているため、その特徴を一言で表すのは大変難しいジャンルです。その初期の特徴を挙げると、黒人ゴスペルの激しいシャウト、黒人特有のブルースの旋律(いわゆるブルー・ノート)、フレーズの繰り返しで盛り上げていく構成などがあります。歌われる歌詞は、ルーツであるゴスペルではキリストの教えであったり、ブルースでは人生の侘び寂びなどであったりしたものから、世俗的な内容のものが増えていきました。

初期の有名なアーティストの曲をいくつか挙げると、Sam Cookeの"You Send Me"(1957年)やAretha Franklinの"(You Make Me Feel Like) A Natural Woman"(1967年)などは、上記のR&Bの特徴、特にゴスペルで培った歌唱が強く感じられます。

<R&B>のなかにはソウル・ミュージック(または単にソウル)と呼ばれるものもあります。これらを明確に区別することは難しく、概ね<R&B/ソウル>としていっしょに表記されることが多いですが、R&Bのなかでもゴスペルの要素が強く、歌のこぶしやアドリブで高揚感を生み出しているものがソウルと呼ばれることが多いようです。

1980年代になるとR&Bはより洗練されていき、ブラック・コンテンポラリーとも呼ばれるようになります。諸説あると思いますが、Marvin Gayeの"Sexual Healing"(1982年)がその後のR&Bに大きな影響を及ぼしています。この曲ではリズムマシン「TR-808」による淡々としたシンプルなリズム・トラックを採用し、生演奏でなくとも工夫することによってソウルが感じられる作品となることを示しました。皆さんがよく耳にするようなR&Bはこのような印象の曲が多いと思いますが、初期のR&Bを好む方のなかには違和感を覚える方も少なくないように思います。

国内で有名なR&Bのアーティストというと、久保田利伸やMISIAなどが挙げられます。上記の黒人アーティストのようなソウルフルな歌唱を研究し、高い技術力で日本のR&Bとして表現しているのだと思います。

 


■ボーカロイドとR&B

ボーカロイドが歌うR&Bは、niconicoでは主に<VOCAR&B>というタグで共有されています。また、UTAUが歌うR&Bは、数は少ないですが<UTAUR&B>というタグがついていることもあります。niconicoで<VOCAR&B>のキーワードで検索してみると、およそ950曲程度の作品がヒットします。その内の約半数は初音ミクが歌うものですが、巡音ルカが歌うものも多くあります。R&Bに大人っぽい印象を求めている方が多いからか、可愛いボーカルより艶や色気が含まれるものが好まれているのだと思います。

niconicoに投稿されている作品はこちらから探すことができます。

<VOCAR&B>のキーワード検索

 

初期の<VOCAR&B>で挙げておきたいのは、ともさんの"星空に願いを込めて -Good Night"(2007.11.06)です。00年代初頭の女性R&Bシンガーブームの雰囲気を感じさせるアレンジで、初音ミクのボーカルも歌詞字幕なしでも聞き取れるほどに調整されています。ですが、本人談で初音ミクはほぼベタ打ちに近いことが明らかになり、この曲をきっかけに初音ミクのポテンシャルに多くの方が期待を抱いたのではないかと思います。

つぎに挙げたいのがDixie Flatlineさんの"ジェミニ"(2008.03.07)です。これまでに投稿されていたVOCAR&B作品とは毛色が異なり、本格的なR&Bサウンドとリズムを有していました。公式設定ではないものの、鏡音リン・レンが双子であるという設定を活かした歌詞や歌い回し、両者の幼さが残る歌声を支える優しいメロディが印象的です。

また、同時期に投稿していた制作者としてShake Sphere(鮭P)さんが挙げられます。"D.O.P.E."(2008.08.18)は男声ボーカルのがくっぽいどが色気たっぷりに歌うR&Bで、官能的な歌詞ですが爽やかで透き通るようなサウンドで中和され、カジュアルに聴けるように作られています。

 

巡音ルカが発売された2009年以降になると、巡音ルカが歌うR&Bがじわじわと増えていきます。ジャズなどと同様に、ムードと艶のある歌声が求められていたR&Bでは巡音ルカは待望のライブラリだったのかもしれません。

ムジカデリクさんの"Black Sheep"(2010.11.02)のように、巡音ルカの印象に合うようなアダルトな雰囲気が強い作品も増えてきます。また、sat(頑なP)さんの"Ashtray"(2011.10.18)のように巡音ルカの英語データベースを活用して英語歌詞にチャレンジした作品もあります。

巡音ルカのR&Bで外せない制作者として、ぱんだっちさんやChiquewaさんが挙げられると思います。"恋は焦らして"(2013.04.06)は曲名もそうですが、The Supremesの"You Can't Hurry Love(恋はあせらず)"(1966年)でおなじみの軽快なモータウン・ビートが恋のうきうき・わくわく感を表現しています。

 

巡音ルカが発売された2009は、GUMIが発売された年でもあります。

GUMIの登場により、幸せに満ちあふれた気持ちを歌ったtakamattさんの"アイノヨロコビ"(2010.02.11)や、鬱屈で眠れない夜を過ごす様子を歌った硝子ウールさんの"アルマジロ・アワー"(2012.07.28)など、等身大な歌詞や内省的なテーマの楽曲も目立つようになったと思います。それを飾らずに伝えるボーカルとしてGUMIが選ばれているのだと思います。

 

また、先ほど紹介したDixie Flatlineさんの"ジェミニ"をはじめとして、鏡音リン・レンが歌うR&Bも数多くの名曲が生まれています。

たとえば、2009年頃からR&Bを投稿してるDATEKENさんの"sigh"(2016.08.19)は、和のテイストも混じったR&Bで、曲名通りため息がでるほど美しいメロディラインにのって鏡音レンがささやくように歌っています。また、パトリチェフさんの"CHAIR FOR TWO"(2013.02.15)は鏡音リン・レンによるコーラス・ワーク、掛け合いが素晴らしく、鏡音リン・レンの特性(下田麻美さんがどちらの声の素となっていること)をフルに活かしているように思います。さながら、姉妹R&BデュオのDOUBLEを彷彿とさせます。

 

最近になると、繊細で優美なサウンドで魅せる春野さんの"楽園"(2017.10.24)や、初音ミクと作者自身がデュエットするcat nap(ねこむらさん、ねこみさん)の"ミッドナイト・プール"(2017.06.01)のような作品が登場し、これまではなかったアプローチの作品も見かけるようになりました。また、2018年にはVOCALOID5が発売となりましたが、その新ライブラリであるkenが歌っているAmalatte.さんの"Tacet"(2018.10.07)は、荒削りな部分もありますが、ところどころきれいな裏声や甘くソウルフルな歌声を聞かせてくれます。

 

以上、ボーカロイドが歌うR&Bでした。

それではまた次回。

/しま

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