みなさんこんにちは。
ボーカロイド曲を紹介していく連載企画、第9回目は<ポエトリーリーディング>です。
■ポエトリーリーディングとは
ポエトリーリーディングはそのまま直訳すると「詩の朗読」という意味ですが、ただ詩を読み上げるだけにはとどまりません。声だけでなく体をつかって伝えたいメッセージや内からわき上がる言葉を表現する、パフォーマンス性が強いものでもあります。
ポエトリーリーディングの起源は、アメリカにおける人種差別などの問題提起や抗議の街頭演説からはじまり、それをひとつの様式として確立したのがビート派といわれる人々、ジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・バロウズの3人でした。彼らは教会やカフェなどで自作の詩を朗読するようになります。その内容も人種問題など社会に対する問題提起、感情や信念を言葉にして発表するというもので、音楽に乗せて朗読したり、演劇の要素も取り入れるようになり、徐々にパフォーマンス性も重視されるようになりました。
こうした言葉を武器にした思想・運動のことをビート運動と呼び、日本においても影響を受けた詩人の谷川俊太郎をはじめとする著名な詩人たちが、生の演奏に合わせて詩の朗読を行ったりしています。
このポエトリーリーディングは後にラップへと影響を与えることとなり、ポエトリーリーディングの手法や思想を取り込んだラップをポエトリーラップと呼んだりすることもあります。
例えば、不可思議/wonderboyは誰しもが日常で感じるような人生の葛藤や不安、繊細な心の揺れの表現が非常に魅力的なアーティストです。残念なことに2011年に24歳という若さで亡くなり、それをきっかけに彼の存在を知った人は多かった思います。
また、MOROHAは熱量の高いボーカルが印象的です。アコースティック・ギターのみのシンプルな構成だからこそ曲中の言葉の密度が高く、はき出される言葉が強く耳に残ります。スマートフォン『Galaxy S9』のCMに声優として出演したこともあり、この声に聞き覚えがある方は多いと思います。
■ボーカロイドとポエトリーリーディング
ボーカロイドが用いられているポエトリーリーディングは、niconicoでは主に<ポエトリーリーディング>および<POEMLOID>というタグで共有されています。<ポエトリーリーディング>のタグではボーカロイドカテゴリーではない動画も該当するため、<ポエトリーリーディング+VOCALOID>でキーワード検索するか、<POEMLOID>タグで検索するのが好ましいと思います。niconicoで<POEMLOID>をキーワードで検索してみると、およそ380曲程度の作品がヒットします。
その中でもっとも使用されているライブラリーはCeVIOのさとうささらで、次に結月ゆかり、初音ミクと続いています。ポエトリーリーディングは朗読形式のジャンルであるため、テキスト読み上げソフトであるVOICEROIDやCeVIOが多く使われている傾向にあるようです。
niconicoに投稿されている作品はこちらから探すことができます。
<ポエトリーリーディング+VOCALOID>のキーワード検索
VOCALOIDなど合成音声によるポエトリーリーディングの表現を認知させ、広まるきっかけとなったのは、おそらくキャプテンミライさんの"夜の散歩"(2011.12.10)だと思います。VOICEROIDの月読アイが好奇心や怖さが入り交じる夜の散歩をテーマに語っていきますが、時折見せる無邪気なところに愛嬌を感じつつもちょっと不気味な印象も受けます。
数少ないボーカロイドのポエトリーリーディングの作品をいくつか挙げると、Kusegumiさんの"Endroll"(2011.06.30)では作中のワンシーンで風景や心情を朗読で細かく描写しており、またそれは終盤の歌へと展開するための重要なパートとして位置づけられています。また、渡辺いとさんの"虹と欄干"(2013.03.16)では、結婚という誰かと一緒に生きる決断をし、夢や目標を改めて考えることをテーマに、GUMIとLilyが押韻も交えながら朗読していきます。
VOICEROIDの結月ゆかりによる作品では、例えばamahisaさんやHaniwaさんなどが挙げられます。amahisaさんの"縁"(2016/04/10)では結月ゆかりをテーマに、結月ゆかりと人のつながりを、また人と人とのつながりを描いています。ピアノ、アコースティックギターを中心とした緩急のある展開で、結月ゆかりはやさしく包み込むようなやわらかい口調と声色で語りかけてきます。
また、Haniwaさんは、例えば "宗教に犯されているのではないか。"(2016.01.23)のように、太くゆがんだベースや生々しいドラムによる轟音のなかで結月ゆかりが冷徹に語りかけます。曲中では単調な展開を続けた後に<単調であって進歩もない。平凡であって感動もない。愚鈍であって魅力もない。それは命と同じなのに。>と視聴者に問いかけてくる場面もあります。
CeVIOのさとうささらによるポエトリーリーディング作品が最も多いのですが、その中でも特に挙げておきたいのがAnnoyinさん(旧:HeadNhoさん)やSagishiさんです。Annoyinさんの"全景"(2015/04/04)は物語というよりは抽象的な風景を描いているような内容で、それもあってか押韻による言葉やそのリズムが強く耳に残るポエトリーラップです。
sagishiさんも主にさとうささらを用いた作品を発表していますが、ポエトリーリーディングの派生ジャンルでもあるポエムコアという形態をとっています。とーずさんと共作した"胎水譚"(2018.06.16)は、Sagishiさんの文章が発音されることによって生まれる音のリズムとしても心地よく、それをとーずさんの静謐な音がタイミングよくかみ合うことで、文学をより鮮やかに彩っているように思えます。
その他のライブラリを用いた作品としては、さとうささらと同じCeVIOのライブラリーであるONE(オネ)を用いた石風呂さんの"深夜の街にて"(2015.01.27)や、ギャラ子Talkを用いた青屋夏生さんの"日記"(2015.01.07)などがあります。特に青屋夏生さんの詩は普遍的な日常や経験を描いており、上記で紹介した不可思議/wonderboyに通ずるものがあるように思います。
以上、ボーカロイドによるポエトリーリーディングでした。
それではまた次回。
/しま