作品紹介

【ボーカロイド曲を紹介していく連載】第2回~チップチューン

みなさんこんにちは。

ボーカロイド曲を紹介していく連載企画、第2回目は<チップチューン>です。


■チップチューンとは

ファミコンやゲームボーイの音楽。あるいは、それら風の音楽──。

チップチューンとは何かを説明するにあたって、国内におけるチップチューンの第一人者として知られる田中治久(hally)氏はこのように表現しています。懐かしいレトロなゲーム音楽からそのテイストをそのまま持ってきたような音楽なのに、ゲーム音楽ではないという不思議なものを指す際に、チップチューンという言葉が使われています。

チップチューンでは音源チップという超小型シンセサイザーのようなものを使ったり、またはそれをシミュレートするソフトウェアを使って音楽を奏でています。

ですが、どこまで音の質感を再現できていればよいのか、曲の中でどの程度その音が占めていればよいのかなど、チップチューンというジャンルを定義するための要件は明確には決まっていません。参考までに、田中治久(hally)氏が2001年に設立したチップチューン・ニュースサイト「VORC」では、<少なくとも半分以上のパートがチップ由来の音で奏でられていること>をチップチューンの要件としていたようです。もちろん、これを必ず満たさなくてはいけないというわけではないようです。

チップチューンは電子音を生み出すコンピュータやゲーム音楽の発展と普及とともに形成されてきましたが、その歴史や全体像について語られることは少なかったようです。この記事ではその紹介は割愛しますが、「チップチューンのすべて~ゲーム機から生まれた新しい音楽~」が参考になります。

 

さて、ボーカロイドが歌うチップチューンの曲というと、sasakure.UKさんの"ニジイロ*アドベンチュア"(201)や"*ハロー、プラネット。"(2009.)のようなイメージが浮かぶでしょうか。ピコピコした音とノイズが多用されており、ドット絵のアニメーションによるMVも相まってゲームをプレイしているように感じる楽しい作品です。

では、チップチューンという表現を用い、現在第一線で活躍しているアーティストの作品もいくつか見てみましょう。

まずはYMCKです。この曲ではジャズのスウィングのリズムとピコピコしたチップチューンのサウンドに、心地よいウィスパーヴォイスのヴォーカルが加わっています。またMVもドット絵によるアニメーションとなっています。

つぎにヒゲドライバーです。前半部分の"NO PARTY, NO PARTY feat.ハヤシ(POLYSICS)"では、チップチューンのサウンドが取り入れられたダンスミュージックになっています。前回の連載で紹介したクラブミュージック寄りのテクノポップにも似ていますね。テクノポップとチップチューンの境界線は曖昧だという印象を受けます。

他にもTORIENAサカモト教授などが活躍しており、特にサカモト教授はレフティーモンスターPとコラボし、ボーカルにボーカロイドのGUMIを迎えた楽曲を発表したことで話題になりました。

 


■ボーカロイドとチップチューン

ボーカロイドが歌っているチップチューンですが、「niconico」ではおもに<Chiptune×VOCALOIDリンク>というタグで共有されています。「niconico」で<Chiptune×VOCALOIDリンク>のキーワードで検索してみると、およそ850曲もの作品がヒットします。また、既存のボカロ曲をチップチューンでアレンジした作品もあり、それらには<ボカロオリジナルをピコってみた>というタグがつけられていることが多いです(ただ、最近はあまり頻繁に使われてはいないようです)。

<Chiptune×VOCALOIDリンク>キーワード検索

<Chiptune×VOCALOIDリンク>でおもに使用されているボーカロイドを調べてみると、初音ミクがボーカルに入っている曲が60%ほどを占めています。初音ミクに続いて多く使われているのが鏡音リン、Megpoid(GUMI)、となっており、女声ボーカルが上位を占めています。鏡音レンもGUMIと同程度で、ミクノポップほどボーカロイドに偏りが少ない印象です。

 

■チップチューン色が濃い作品

まずは曲の全編にわたってチップチューンのサウンドが使われている作品を紹介していきます。

ドッPさんの"しろいそら"(2008.5.26)はゲームボーイの音楽ソフトである「Nanoloop」を使い制作されており、ざらざらとしたノイズが印象的です。ゲームボーイで遊んでいた世代はこの音で懐かしさを感じるのではないでしょうか。

チップチューンのサウンドはゲーム音楽をイメージすることもあり、MVがゲーム風の作品が多く見受けられます。おにゅうPさんの"クソゲー実況プレイ"(2010.1.25)やstudio balabushkaさんの"ウタカタ"(2010.2.10)、すなめりさんの"倦むなら"(2018.7.13)などは、それぞれとあるゲームにそっくりで参考元がわかると一層楽しくなります。



チップチューンの作品の中にはタグに<ミクノポップ>が付いているものもあるように、立秋さんの"うに"(2011.8.31)やMURASAKIさんの"あまつぶドロップ"(2018.5.23)などテクノポップ風な曲も多くあります。


 

■チップチューン×ロック

<Chiptune×VOCALOIDリンク>のなかには、チップチューンのサウンドとロックを組み合わせている作品も多く見受けられます。

ファミロックPさんの"鬼彼女"(2010.11.13)やヤヅキ(激おこP)さんの"ボクらのエンディングテーマ"(2017.8.30)はチップチューンのサウンドが大部分を占めており、ドラムなど一部の音だけがチップ由来ではないものが使われています。チップチューン側にロックの要素を取り入れたような印象ですね。


それに対してロック側にチップチューンのサウンドを取り入れている作品もあります。Taskさんの"新宿シック"(2014.5.16)やMARETUさんの"うまれるまえは"(2015.9.17)などは、チップチューンのサウンドが全編にわたってではなく部分的に使われているため、上記のふたつの曲よりもロックが強く感じられます。なかには効果音的にほんの一部分だけピコピコしている音が入っている曲もありますが、そうした曲には<Chiptune×VOCALOIDリンク>タグが付いたり付いていなかったりします。


 

■チップチューンによる様々な表現

チップチューンとロックの組み合わせの他にも、ユニークなジャンルミックスの作品もあります。

たとえば、Rin(ぎんすけ) さんの"KUSOGE-"(2014.1.28)はチップチューンとブロステップを組み合わせたチップステップなる曲を投稿しています。凶暴なサウンドのブロステップもチップチューンのピコピコ音が混じるとすこし可愛くなりますね。

ぎすたかさんの"パとサとラ"(2018.1.12)はチップチューンのピコピコ音とノイズを取り入れたエレクトロニカ風の曲で、途中でピアノソロによる静寂なパートやドラムブレイクが激しく鳴るパターンへ展開していくユニークな構成の曲です。チップチューンのサウンドとピアノの組み合わせは物悲しい印象を受けます。

Man_booさんの"ウソとパレード"(2011.8.19)はジャズをベースにチップチューンのピコピコやノイズを部分的に取り入れた曲です。はじめに紹介したYMCKの曲では、チップチューンのサウンドでジャズのリズムをきざむような構成でしたが、こちらはジャズのサウンドに装飾するようなかたちで使われています。すこし親しみやすく柔らかい印象になったように感じますね。

 

以上、ボーカロイドが歌うチップチューンでした。

それではまた次回。

/しま

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