作品紹介

【ボーカロイド曲を紹介していく連載】第5回~フューチャー・ベース

みなさんこんにちは。

ボーカロイド曲を紹介していく連載企画、第5回目は<フューチャー・ベース>です。


■フューチャー・ベースとは

フューチャー・ベースは大まかに言うと、トラップのようなリズム構築、キラキラしたゴージャスなシンセサウンド、メロディアスなコードなどが特徴です。リズムやビートのみにフォーカスが行きがちなダンスミュージックとは異なり、人の耳を引きつけるメロディを重視しているスタイルになります。

フューチャー・ベースは提唱者によって明確に定義されて誕生したわけではないようで、オーストラリア出身のWave Racerがこうした特徴を持った音楽をシーンに強く認知させ、流行を作ったと言われています。彼の楽曲の”Rock U Tonite”(2013/05/25)や ”Streamers” (2014.02.07)には上記のような特徴が詰め込まれており、ビビッドな色使いとイルカが描かれたジャケットからトロピカルやシーパンクの要素も感じられます。

フューチャー・ベースでもうひとつ注目したいのが、日本の文化からの影響です。GEOTHEORYのアルバム『Futuristic Love』(2014.08.19)にはジャケットに<将来>(おそらく<Future>という意味で使用)という文字がデザインされ、ローマ字表記の曲も収録されています。また、Beatportでも「日本の文化に強い影響を受けた」と紹介されています。

さらに日本の影響を強く感じられる作風として、Pusherの“Islands, Waves, Caves, & Skies”(2014.06.11)などがあります。この曲ではおなじみのキャラクターであるヨッシーのボイスサンプリングが随所に散りばめられており、ゲーム音楽のような雰囲気も感じ取れます。そのため、フューチャー・ベースはしばしば「Nintendo 64のサウンド」とも形容されています。

日本の文化の影響を受けているフューチャー・ベースはさらにアニメなど「kawaii」要素を取り込み、変化していきます。Snail's House(Ujico)の"Nyan Nyan Angel!"(2014.08.30)などのように女性ヴォーカルやまたそのサンプリング、美少女やアニメ・キャラクターのサムネイルなど、「kawaii」要素が盛り込まれているフューチャー・ベースの作品は「kawaii Future Bass」として広まっていきます。

最近ではPerfumeの"If you wanna"(2017.08.30)により、フューチャー・ベースが新しいサウンドだとして多くのメディアで紹介されました。フューチャー・ベースが誕生し、流行してから数年後の出来事でしたが、その認知度はさらに高まったのではないかと思います。


■ボーカロイドとフューチャー・ベース

ボーカロイドが歌っている、またボイスサンプリングの素材として使われているフューチャー・ベースですが、niconicoではおもに<Future_Bass><Futurebass>のググで共有されています。ボーカロイドに関連するワードがくっついた独自のタグは存在しないようで、ジャンルの名前がそのまま使われているのが現状です。

niconicoで<Future Bass VOCALOID>のキーワードで検索してみると、およそ120曲もの作品がヒットします。ですが、実際はもっと多くの作品が発表されています。というのも、ボーカロイドが使われているフューチャー・ベースの作品は海外在住のアーティストが発表していることも多く、彼らは主にSoundCloudに作品を投稿しているからです。

残念ながらその全体数はわかりません。そうした作品は、例えボーカロイドが歌っていたとしてもそれを表記していない場合が多いため探すことが難しいです。さらに、SoundCloudは検索システムが非常に扱いにくいので、おすすめされる関連作品の候補から地道に探すしかないようです。

niconicoに投稿されている作品はこちらから探すことができます。

<future bass VOCALOID>キーワード検索

 

早い時期からフューチャー・ベースにボーカロイドの声を組み込んでいたのがCosmo's Midnightの"Moshi"(2013.12.10)です。歌わないものの、初音ミクの声が随所にサンプリングされています。MAXOの"Honeybell"(2014.05.27)に至ってはUTAUの音声ライブラリーである雷音レナを用いています。両者は日本文化が好きなことをインタビューなどで答えていますが、特にMAXOの曲はアニメやゲーム内の効果音だけでなく音声MAD・MAD動画作品に使われるような音ネタまで使っているので、かなり深いオタク・アングラ文化にまで精通していることがうかがえます。

ボーカロイド曲の視聴者にフューチャー・ベースを広く認知させたきっかけとなった作品として、Snail's house(Ujico*)さんの"Tell Your World (Snail's House Remix)"(2015.06.11)が挙げられると思います。その名の通り、kz(livetune)さんの"Tell Your World"のRemixです。EDMのように徐々に盛り上げて最高潮のところでドロップへ移行する構成ですが、ドロップに相当する部分を"Tell Your World"のサビ終わりになるように展開するユニークさもさることながら、そこでベースと厚いシンセを乗せてくるさらに盛り上げていくアレンジが素晴らしいです。

lightspopさんの"peps"(2016.02.18)も上記のRemixのように分厚いシンセのサウンドが特徴的です。彼がこれまで作り上げてきたテクノポップを軸にトラップ的なハイハットの連打音やジャージー・クラブのベッドがきしむようなキコキコ音も取り入れており、密度の高い作品に仕上がっています。

TKN(とっくん)さんの"Hatsune"(2017.08.24)はEDMからフューチャー・ベースにアプローチしたような作風です。マジカルミライのテーマソングとして応募した作品で、初音ミクによるボーカル・ドロップのフレーズが儚く聞こえてきます。イナバの楽団さんの"Yura Yura Floatin’ (VIP Mix) ft. 初音ミク"(2018.03.18)もまた同様なアプローチがみられる作品です。もともと開放的で透き通るようなシンセのサウンドや初音ミクの調整が特徴で、それにフューチャー・ベースの要素が加わるとこでトロピカルの雰囲気が以前の作品より強く感じられるようになっています。

はじめに挙げたようなトロピカルな要素が感じられる曲として、gaburyuさんの"まっしろ"(2017.05.27)などが挙げられます。波の音やカモメの鳴き声などの環境音からはじまり、スネアやハイハット、シンセによって彩られていきます。音数も少なく、またまっしろなサムネイルなので、目を閉じて個々の音に耳を傾けるのも良いかもしれません。また、"まっしろ"のようにゆったりと聴けるものも人気があり、後藤尚さんの"AM2:30"(2017.11.17)は海外のリスナーにも高評価を受けています。


フューチャー・ベースに限らないのですが、そのサウンドで目立っているいくつかの特徴を取り込んだだけでは似たり寄ったりな作品になってしまうことも少なくなく、独自性を出すためには工夫が必要になってきます。Daphnisさんの"§щээ▼§"(2016.06.12)は、フューチャー・ベースの特徴を捉えつつも、彼のこれまでの作品でみられたIDMやエレクトロニカと見事にクロスオーヴァーした作品です。トイトロニカのように可愛くポップですが、同じパートが存在しないほど次々と展開してきます。

 

 

以上、ボーカロイドが歌うフューチャー・ベースでした。

それではまた次回。

/しま

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