作品紹介

【ボーカロイド曲を紹介していく連載】第4回~レゲエ

みなさんこんにちは。

ボーカロイド曲を紹介していく連載企画、第4回目は<レゲエ>です。


■レゲエとは

レゲエはジャマイカで発祥した音楽です。その歴史はジャマイカ音楽の歴史をさかのぼることになりますが、ジャマイカにおけるフォーク音楽のメントにはじまり、ジャマイカ流のリズム&ブルース、スカ、ロック・ステディへと変化、流行した後に、それらから発展したレゲエが誕生しました。

レゲエ誕生の瞬間については諸説ありますが、例として挙げられる曲としてLarry Marshallの"Nanny Goat"(1968)やThe Beltonesの"No More Heartache"(1968)、Lester Sterlingの"Bangarang"などがあります。いずれの曲も1968年に発表されたもので、この時期にレゲエという新しい音楽が生まれたと言われています。

"Nanny Goat"では変化に富んだオルガンによるリズムがあり、 "No More Heartache"はロック・ステディのようなコード進行やホーンのアレンジだがオルガンのリズムが目立ちます。初期のレゲエ、特に踊ることを目的としたものではリズミックなオルガンのシャッフルで構成されていることが多いようです。

レゲエはその後、ダンスホール・レゲエへと移り変わっていきます。転調や展開がほとんどない無機的なリズム(リディムとも言われます)が特徴的になってきます。Wayne Smithの"Under Mi Sleng Teng"(1984)にはCasioのCasiotone MT-40によるリディムが使われており、この頃から、楽器の演奏からデジタル化への移行が顕著になってきます。

 


■ボーカロイドとレゲエ

ボーカロイドが歌っているレゲエですが、「niconico」ではおもに<ボカロレゲエ>というタグで共有されています。「niconico」で<ボカロレゲエ>のキーワードで検索してみると、およそ160曲もの作品がヒットします。これまでに紹介してきたジャンルと比べると作品数が非常に少ないので、今からでも全曲聴くことができます。

<ボカロレゲエ>でおもに使用されているボーカロイドですが、全体数も少ないのでこれまでのジャンルと概ね同じ構成になります。初音ミクがボーカルに入っている曲が多く6割ほどを占めており、次いでMegpoid(GUMI)、鏡音リン・レンという順になっています。

<ボカロレゲエ>キーワード検索

 

ボーカロイドが歌うレゲエというと、takamattさんの作品群を思い浮かべる方が多いと思います。<ボカロレゲエ>のキーワード検索でも、再生数上位の作品はほとんどがtakamattさんによるものですので、ボカロレゲエを代表するアーティストと言っても過言ではないでしょう。彼の作品のなかでも"ライオン☆ボーイ"(2012.10.18)には、ロック・ステディのようなホーンのアレンジなど、上記で紹介したようなレゲエの要素が色濃く表れています。

一方で、"トキヲ・ファンカ"(2013.05.27)のように和楽器の音をふんだんに使いつつ、レゲエから生まれたダブの手法、また発表当時流行していたブロ・ステップ/ダブ・ステップの攻撃的なワブルベースを取り入れた、過去と未来が混在するSF的な日本を描いたダンスホール・レゲエの作品も発表しています。takamattさんの作品を一通り聴くだけでも、ルーツに近いものから現代的にアレンジされたものまで、幅広いレゲエを楽しむことができます。

初音ミクが発売されて間もない時期にボカロレゲエで存在感を放っていたのがケケケのケPさんです。ボカロが歌う初期のダンスホール・レゲエの"さざなみメロディー"(2008.07.02)は、初音ミクのようなレゲエ・ギャルの強烈なイラストに注目がいきがちですが、アップテンポなリディムやエコーをかけた歌声が夏の高揚感や開放感を見事に演出しています。テクニカルなラップのパートにも注目です。後に発表された"さざなみメロディー LOVERS ROCK MIKU MIX"(2008.08.14)では、ゆったりしたリズムになりソウルの甘く柔らかい質感にアレンジされています。

レゲエの陽気なイメージから夏を想像する方が多いのか、夏をテーマにした作品ではレゲエであることが多い印象です(制作時期がたまたま夏だったのでレゲエにしたという方も)。Kitotanさんの"Daybreak Rockers"(2012.08.31)は夏の終わりを歌ったゆったりとしたレゲエの作品で、トロピカルなサウンドが心地よい作品です。また、iNatさんの"E,OH!TAIYO!"(2014.06.05)は初音ミクとb5a3f4a2さんによるラップが見事で、レゲエで有名なフレーズ<Everything's Gonna Be Alright>(Bob Marleyの同名曲より)もとびだします。

上記の"さざなみメロディー"のアレンジのタイトルに<ラヴァーズ・ロック>という言葉がありましたが、これはレゲエから派生したジャンルです。レゲエは政治的なメッセージを込めたレベル・ミュージック(反抗の音楽)の側面を持っており、1970年代はそうした内容の歌が流行していました。ラブソングのものもありましたが、ジャマイカでは廃れていきます。ですがラブソング系のものはイギリスで受け入れられて、ソウル・ミュージックの要素を取り込みラヴァーズ・ロックへと移り変わっていきました。

前回のファンク特集でも紹介した青屋夏生さんは、"祭囃子がきこえる"(2015.08.19)のようなオルガンの音が心地よい柔らかい質感のラヴァーズ・ロックの作品も発表しています。また、この作品から影響を受けたとしている平田義久さんの"この夏のすべて"(2017.02.17)は、レゲエ/ラヴァーズ・ロックを基にさらに和のテイストを盛り込んで発展させた作品です。レゲエのリズムに三味線や祭囃子の笛のような和を想起させる音をちりばめ、都会に住む青年の恋愛観を描写しています。

また、こうした曲調で恋愛を描いている作品は他にもあり、たとえばMASAOMIさんの"Summer image"(2016.05.07)などが挙げられます。316さんの切ない歌詞が静かに聞こえてくるピアノの音色と相まって感傷的になってしまいます。

 

以上、ボーカロイドが歌うレゲエでした。

それではまた次回。

/しま

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