作品紹介

【ボーカロイド曲を紹介していく連載】第6回~ジューク/フットワーク

みなさんこんにちは。

ボーカロイド曲を紹介していく連載企画、第6回目は<ジューク/フットワーク>です。


■ジューク/フットワークとは

<ジューク/フットワーク>は、アメリカのシカゴで生まれた音楽のスタイルやダンスのムーブメントを総称したものです。

シカゴと言えばシカゴ・ハウスというジャンルが有名ですね。そのシカゴ・ハウスから躍動的かつミニマルなゲットー・ハウスへと派生し、ゲットー・ハウスのテンポが上がったものが<ジューク>と呼ばれるようになります。ゲットー・ハウスのBPMは130前後のようですが、<ジューク>のBPMは160前後まで上昇しています。

その後、<ジューク>のなかでも、4拍子だったビートが複雑に変化したものが現れてきます。代表的なのがBPM160とBPM120の複数のリズム(ポリリズム)が共存しているもので、この複雑なリズムに合わせて脚を高速かつ複雑に動かすダンスが生まれました。この音楽とダンスは<フットワーク>と呼ばれるようになります。

<ジューク>と<フットワーク>を細かく見ていけば上記のようなわずかな違いはありますが、こうした音楽のスタイルやダンスのムーブメントを総称してふたつの名を合わせたもの、<ジューク/フットワーク>として呼称されています。その<ジューク/フットワーク>のドキュメンタリーが日本語字幕付きで公開されているので、以下に紹介しておきます。これを視聴すると、どんなカルチャーなのかを大まかに知ることができます。

<ジューク/フットワーク>の代表的なアーティストと作品をいくつか挙げたいと思います。まずは、1980年代のシカゴ・ハウス、1990年代のゲットー・ハウス、2000年代のジュークと、シカゴの音楽シーンと変遷とともに長いキャリアを築いてきたTRAXMANです。ジュークといえばこの方を挙げる人も多いと思います。"Da Comeback"(2012)をはじめ、複雑なビートや細切れのボイスサンプリングから圧倒的なミックススキルが窺えます。

つぎは、TRAXMANと同様に<ジューク/フットワーク>のパイオニアであるDJ RashadとDJ Spinnです。DJ Rashadは残念ながら2014年4月26日に亡くなっています。

つぎはフットワークの鬼才、RP Booです。代表的な"Speakers R-4"(2013)はビートだけに着目すれば単純そうに聞こえますが、タイミングを少しずらしてボイスサンプリングを鳴らすことで複雑になったように聞こえるのが非常に興味深いです。

この<ジューク/フットワーク>は日本で独自の進化を遂げていきます。どう変わったかを的確に表現することは大変難しいのですが、その音楽性は米Rolling Stone誌に「Future Sounds」として<日本のジューク/フットワーク>が取り上げられたほどです。日本のジューク・シーンのパイオニアDJ Fulltonoにはじまり、食品まつり a.k.a foodman、Satanic porno cult shopなど、数多くのアーティストとその凄まじい熱量をもって築き上げられていきました。


■ボーカロイドとジューク/フットワーク

ボーカロイドが歌っている、またボイスサンプリングの素材として使われているジューク/フットワークですが、niconicoで主に共有されている独自のタグは今のところ無いようです。<初音JUKE>というタグがありますが、それほど普及していません。その上、ジューク/フットワークの表記の仕方もいくつか種類があるので、探すのはすこし大変です。

試しにniconicoで<Juke vocaloid>のキーワードで検索してみると、およそ40曲程度の作品がヒットします。Bandcampなど他のサイトに投稿されているものも多くあるので、実際には倍ほどの作品があると思います。

niconicoに投稿されている作品はこちらから探すことができます。

<Juke vocaloid>キーワード検索

 

ボーカロイドが歌うジューク/フットワークが投稿されはじめたのは2014年の後半頃になります。この頃から既に、上記のような作品の模倣だけでなく、複雑なリズムを自身の作風の一部に取り込んだ実験的なものが多く見受けられます。いっちゃんさんの"MIKU DUB JUKE"(2014.10.20)はダブとジューク/フットワークのポリリズムを組み合わせたもので、エフェクトが強く効いた初音ミクの声はボイスサンプルとして振る舞っています。

おなじく、ボイスサンプル的に初音ミクが使われている作品は多く、たとえば磁気P (otomoni)さんの"FOOT MIKU"(2018.05.19)ではシンプルなジューク/フットワークのリズムと初音ミクの「ど」「しゅ」「み」「く」のみで構成されています。

もちろんボイスサンプルだけでなく、歌を歌っているものもあります。Hizuru(mirgliP)さんの"Alone in the Labyrinth"(2014.10.30)は、自身が得意とするドラムン・ベース/リキッド・ファンクからジューク/フットワークへアプローチしたような作風で、踊るというよりはくつろぐ・まったりするような、リキッド・ファンクに近い作品です。ジャジーな雰囲気のなかで、巡音ルカが英語でしっとりと歌い上げています。また、taronさんの"産声上げた、そんな気がした"(2017.12.01)はトロピカル的な爽やかさを感じさせるシンセが特徴的な心地よい雰囲気の曲で、歌のほかにラップも披露しています。

ジューク/フットワークのリズムを発展させた例としては、円盤Pさんの"予感リップス"(2015.03.30)が挙げられます。ジューク/フットワークのポリリズムを異なる視点で再構築したような実験作です。ですが、そういった複雑さを感じさせないほどポップな作品にまとまっています。

リズムの取り入れ方が独創的な作品として、でんの子Pさんの"あの子の形見の音飛びCD"(2014.10.07)があります。ジューク/フットワークのリズムを<音飛びしたCD>という表現で曲に取り込むという斬新な発想に加えて、音飛びした歌の歌詞で隠されたメッセージを浮かび上がらせるトリックも仕込んでいる、非常に高度で面白い作品になっています。

逆子さんの"lonely dance for me"(2016.03.16)も面白いアプローチをしており、トラップ・ビートを取り入れたアンビエントR&B的なゆったりとした雰囲気から、そのテンションを保ちながら後半に手数の多いフットワークへと移行しています。

こうしたボーカロイドによるジューク/フットワークを集めたコンピレーション・アルバム『Vocaloid Juke』も発表されており、ここでは紹介しきれなかった多くの制作者が参加しています。

 

 

以上、ボーカロイドが歌うジューク/フットワークでした。

それではまた次回。

/しま

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